はじめに ── この視察で見たもの
今回の徳島・木頭の視察は、ひとことで言えば 「地方にある本物の資源を、どう磨き、どう世界へ届けるか」 を学ばせてもらう旅でした。
徳島市内の歴史建築や食の現場から、山間の木頭へ。そこで見たのは、建築・食・ウェルネス・集落再生・農業ビジネスが、それぞれ別々に存在するのではなく、ひとつの地域の物語としてつながっている姿でした。古い建物も、小さな集落も、一本のゆずも、「ここにしかないもの」として丁寧に意味づけられ、人が訪れ、誇りを持てる場へと育てられていました。
今回いちばん持ち帰りたいと感じたのは、「空間や事業を作る」ことの先にある視点でした。私たちが本当に向き合うべきは、人がそこで誇りを持てる場をどうつくるか ── 木頭の現場は、その問いを静かに突きつけてくれました。
視察の全体行程
2026年6月27日(土)〜29日(月)。徳島市から木頭へ入り、2日目に木頭の本質に触れました。最終日(6/29)は各自フリー・帰路のため割愛します。時刻は当日の目安です。
6/27(土)|徳島市から木頭へ
歴史建築・食・ブランドづくりを見て、夕方に木頭へ。
羽田空港 発(ANA)
徳島空港 着
レンタカー受取 → 移動
樫野倶楽部(迎賓館)見学
大正期の建築。国の登録有形文化財。
ザ・パシフィックハーバー(ノビアノビオ)|ランチ
新町川の水辺にあるレストラン・ウエディング空間。
PRISM LAB 見学(カフェタイム)
パティシエ 柴田勇作氏が手がけるラボ。
平成調理師専門学校 見学今回は割愛
徳島市内 出発 → 木頭へ移動
山間部へ。約2時間15分。
木頭 着・チェックイン/休憩
NISHIU de repos ディナー
樹齢100年超の木頭杉で建てた建築。ウェルネス空間。
6/28(日)|木頭の本質に触れる1日
身体を整え、集落再生・未来コンビニ・木頭ゆずの事業まで深く見る。
起床
朝食 / 雲隠れの里プロジェクト説明
ニューヨークを拠点とする映画監督・佐々木芽生氏より。
ヨガ / 藤田社長のお父様のお墓参り
身体と土地に向き合う時間。
雲隠れの里(集落)へ
秘境集落の再生プロジェクトの現場。
北川モータース 着
ケンズギャラリー ランチ
未来コンビニ 見学
山あいの集落に建つ、設計で知られるコンビニ。
CAMP PARK KITO時間の都合で割愛
黄金の村 見学
木頭ゆずの生産・加工の現場。
宿へ戻り
YUZU JAPAN 戦略説明会
地方から世界へ向かう事業戦略を聞く。
ディナー・街の人たちとの交流会
木頭で暮らし、働く人たちとの対話。
蛍を見に
夜は近くへ蛍を見に出かけた。写真や動画に光は写らなかったけれど、闇の中にまたたく小さな光は、この土地の自然の豊かさそのものだった。
道のりが語る、村のリアリティ
木頭は、四国でも指折りの山深い地です。深い渓谷沿いの細い道をたどって、ようやくたどり着きます。便利とは言いきれないこの距離感こそが、ここにしかない時間と価値の裏側にあるもの。移動そのものが、地方の暮らしの現実を静かに教えてくれました。
訪問先別レポート
各訪問先を同じ型で整理しました。評価するためではなく、学ばせてもらった点を残すためのメモです。「印象に残った点」「地方発の価値」は視察時点の所感であり、断定ではありません。
ザ・パシフィックハーバー(ノビアノビオ)
PRISM LAB

- 見たもの
- パティシエ 柴田勇作氏が手がける「スイーツの研究室」。世界大会に挑むなかで理想のゆずを探し続けていた柴田さんは、藤田さんから木頭ゆずを贈られ、その豊かな香りが求めていたものと合致した。木頭ゆずを使ったチョコレートで、世界大会で優勝。
- 印象に残った点
- その後、ゆかりのなかった徳島へ移住を決断し、超人気店に。カヌレやゆずピールなどの人気商品は行列と即完売を生み、世界大会も連覇した。ひとつの出会いから、つくり手の人生も、街も、そして木頭ゆずのステージまでもが一気に変わっていく ── その連鎖の起点を見た。
- 地方発の価値
- 突き抜けた個人の技と、地域の素材(木頭ゆず)が出会うと、互いのステージを引き上げ合う。素材とつくり手のシナジーが、地方から世界へのブランドを生んでいた。
平成調理師専門学校
- 見たもの
- 当初は食の人材育成の現場として訪問予定でしたが、今回の行程では割愛となりました。
NISHIU de repos

- 見たもの
- 地元の木頭杉を約9割使い、自然乾燥にじっくり時間をかけて建てられた、ゆるやかな曲線が印象的な2階建ての木造建築(2023年開業)。1階は囲炉裏やイベント空間、2階はキックボクシング道場を備える、限界集落の「健康と憩い」の複合施設。今回の視察では、身体を休める拠点でもあった。
- 印象に残った点
- 地元の木を、ただ「使う」のではなく、その木が育った時間ごと空間の価値にしていたこと。素材の出どころが分かると、滞在の意味が変わる。
- 地方発の価値
- 地域の素材・時間・休息を組み合わせ、「ここに泊まる理由」を一棟まるごとでつくっていた。
雲隠れの里プロジェクト

- 見たもの
- 木頭の秘境の集落を再生していくプロジェクトの説明。ニューヨークを拠点に活動する映画監督・佐々木芽生氏から、その思想と取り組みをうかがった。デジタルから少し離れ、静けさと余白のなかで過ごす ── そんな集落の姿に触れた。
- 印象に残った点
- 外の世界を知る人が、あえて山間の集落に価値を見いだし、「物語」として再構築しようとしていたこと。場所の意味は、語る人によって立ち上がる。
- 地方発の価値
- 過疎の集落でも、内と外の視点が出会うと、新しい意味と人の流れが生まれうる。
北川モータース

- 見たもの
- 人口減少が進む山奥の村で、修理・レンタカー・中古車販売・塗装・ガソリンスタンドまで、地域の人たちの「車」に関わることをワンストップで担うお店。自動車整備という本業を核に、移動・農業・配送など、暮らしを支える周辺ビジネスへ広げていた。
- 印象に残った点
- この山奥の村で業績を6倍にした過程を、包み隠さずお話しくださった。その原点にあるのは「愛」だと感じた。御子息が「継ぎたい」と言ってくれたこと ── それを叶えるために、自分の代で基盤をつくるという覚悟があった。
- 地方発の価値
- 本業を核に、地域の困りごとを一つずつ引き受けていく。暖かさと実利が両立する、地域のエコシステムがここにあった。
未来コンビニ
CAMP PARK KITO
- 見たもの
- 木頭の自然を生かした滞在・体験の場として訪問予定でしたが、時間の都合で今回は割愛となりました。
黄金の村

- 見たもの
- 木頭ゆずの生産と加工の現場。一次産品をそのまま売るのではなく、加工して付加価値をつけ、ブランドとして届ける仕組み。
- 印象に残った点
- 「ゆず」という一つの素材を軸に、生産・加工・販売・発信までを地域でつないでいたこと。素材から物語までの一貫性。
- 地方発の価値
- 地域の農産物を核に、加工と物語で価値を何倍にもしていた。土地の恵みを地域の事業に変える型。
YUZU JAPAN 戦略説明会
- 見たもの
- 木頭ゆずを軸に、いずれ一万ヘクタール規模で「ジャパンゆず」を育て、日本のブランドとして世界へ届ける構想。買取保証などの仕組み、耕作放棄地という課題、そしてオレンジ・レモンに並ぶ「ゆず」という世界市場(抹茶のように、世界から注目され始めている)まで、すべてを一つの絵としてつなぐ内容だった。
- 印象に残った点
- 木頭ゆずは、ワインでいえばロマネ・コンティのような別格の存在。一千億規模の事業を成した藤田さんの視点で、金融機関等との連携も含めた地域創生の話を聞き、「夢物語で終わらない」解像度の高さを感じた。
- 地方発の価値
- 人口およそ八百人の村で起きている軌跡。その原点は、一人の事業家の「巻き込む力」。小さな村から、世界市場とジャパンブランドへ向かっていた。
- 次に深掘りしたい問い(自分への問い)
- 自分自身の「命の使い方」を、どう定めるか。今回の話は、それを問い直す、重要なターニングポイントになった。
主要テーマ別の学び
訪問先を横断して見えてきた、地方で価値を生む場づくり・事業づくりの要点を6つにまとめました。いずれも「正解」ではなく、持ち帰って考えるための視点です。
01本物の歴史資源を、今の体験価値へ変える
古い建築や伝統素材は、「あるだけ」では伝わらない。樫野倶楽部やNISHIU de reposは、保存にとどまらず、人を迎え・泊め・味わわせる現役の場として生かしていた。本物は、磨かれて初めて価値になる。
見た現場:樫野倶楽部 / NISHIU de repos
02地方だからこそ、非日常を作れる
水辺、山あい、静けさ。都市の基準では「不便」とされる条件を、ここでしか味わえない時間として設計し直していた。不利を引け目にせず、価値の源として扱う視点。
見た現場:パシフィックハーバー / 雲隠れの里 / 木頭の集落
03建築は「機能」だけでなく、地域の象徴になれる
未来コンビニは、買い物という日常機能を持ちながら、訪れること自体が目的になる象徴へと育っていた。一つの建築が、地域の見え方そのものを変える力を持つ。空間は機能の器であると同時に、意味の器でもある。
見た現場:未来コンビニ / NISHIU de repos
04食・農業・加工・発信を、一つの物語にする
木頭ゆずは、生産で終わらず、加工し、ブランド化し、世界へ届ける一連の流れになっていた。「素材 → 加工 → 物語 → 発信」がつながると、一つの素材の価値は何倍にもなる。
見た現場:黄金の村 / YUZU JAPAN / PRISM LAB
05ウェルネスと場づくりが、滞在する理由を作る
ヨガや休息、素材に包まれる空間。「見て回る」だけでなく「身体で過ごす」要素があると、その場所に留まる理由が生まれる。働く場・もてなしの場にも、身体と心の休まりという視点が要る。
見た現場:NISHIU de repos / 木頭での朝の時間
06小さな集落でも、世界へつながるブランドは作れる
移住したクリエイター、海外へ向かうゆず事業。規模の大小ではなく、筋の通った物語と外とつながる意志があれば、小さな場所からでも世界に届く。地方発グローバルは、特別な誰かだけのものではない。
見た現場:雲隠れの里プロジェクト / YUZU JAPAN / 未来コンビニ
経営者としての学び ── 規模・社会性・そして愛
今回の視察では、地方から大きな事業を育てている経営者・つくり手の方々と、じっくり言葉を交わす時間がありました。個々の事業の中身にはここでは触れませんが、規模を追う一人の経営者として深く考えさせられた「ものの見方」を、普遍的な学びとして残します。
01規模は、社会の困りごとを解いた「結果」としてついてくる
売上や利益の数字(十億、百億)は、エゴで追うものではない。世の中の困りごとを真ん中に置き、社会の役に立つことを徹底して考え抜く。本当に良いもの・社会に合うものであれば、規模は後から自然についてくる ── 順番を、決して間違えない。
02先に「成功した未来の側」に立ち、そこへ自分を寄せていく
まだ届いていない大きな未来を、先に自分の視座として持つ。そして時間をかけて、考え方も行動もその目線に合わせていく。今ある資産や、地域に眠る使われていない資源を掛け合わせ、価値のかたまりをいくつも組み立てる ── 大きな壁は、気合ではなく設計で越えていく。
03人はルールではなく「言葉」で動く
人を細かい規則で縛っても、組織は動かない。誰が聞いても一瞬で「なるほど」と腑に落ちる、いちばん上流の明確な言葉(理念)を磨く。その一言が、商品も組織も自然と同じ方向へ走らせる。伝える側の仕事は、命じることではなく「翻訳する」こと。
04本物に「物語」をのせて、価値を何倍にもする
突き抜けた本物の素材や技術に、誇れる物語を重ねると、その価値は何倍にもなる。そして、まだ誰も本気で耕していない市場を見つけ、そこへ正面から挑む。足元の現場と、世界という大きな構想を、一本の線でつなぐ。
05地域再生の核は「土着」と「一次産業」、そして連携
外から企業を呼んでくるだけの地域おこしは、足元が弱い。その土地に根ざした暮らしと、農業のような一次産業こそが本質。行政・金融・地元が手を組み、公的な仕組みも生かしながら、人が無理なく住み続けられる足場を、長い目で整えていく。
06訪れる人を「お客さん」から「仲間(当事者)」へ
消費して帰るだけのお客さんではなく、手を動かし、その場に関わる「担い手」になってもらう。便利さから少し離れ、身体を使って過ごすなかで、人は感覚と元気を取り戻していく。そうして何度も戻ってくる、関わり続ける人の輪が生まれる。
07すべての根にあるのは、純度100%の愛と誠実さ
緻密な戦略も、人を動かす仕組みも、その中心にあったのはエゴのない愛だった。家族、仲間、そして故郷を守り抜くという、まっすぐな思いと、裏切らない誠実さ。経営者が力をつけ、規模を求める本当の理由は ── どんな時代が来ても、ともに働く仲間とその家族の人生を、何があっても守り抜く「仕組み」をつくるため。学びの根っこは、結局そこにあった。
付録
訪問先リンク集(公式サイト・紹介ページ)
- 樫野倶楽部 / 公式
- ザ・パシフィックハーバー / 公式
- ノビアノビオ / 公式
- PRISM LAB / 公式
- NISHIU de repos / 紹介記事
- 未来コンビニ / 公式
Googleマップ(地点検索)
元しおり(メンバー用・行程ページ)
- 徳島・木頭 視察旅のしおり 2026 / 行程・地図の詳細はこちら
おわりに
木頭で見たのは、「ここにしかないもの」を信じ、磨き、外へ届けようとする人たちの姿でした。それは、私たちがそれぞれの仕事や生き方を通して向き合うこと ──「人が誇りを持てる場をつくる」── と、深いところで重なっています。
このレポートが、参加した一人ひとりの学びを記録に残し、次の視察や、EOの仲間との対話の土台になればと願っています。学ばせてくださった木頭の皆さまに、心より感謝いたします。



